Synthesis of CCL-1 using Bifunctional Thioacid-Mediated Strategy

[要約]

このページでは、糖タンパク質の新しい化学合成法として、egg yolkから得られるヒト型糖鎖アスパラギンのカルボン酸をチオアシッドとし、糖鎖アスパラギンのN,C両末端にペプチドを連続的に導入する方法を確立した。これにより糖鎖アスパラギンより5―6工程で糖タンパク質が合成できるようになった。

Thioacid coupling

従来の糖ペプチド合成法では、N型糖鎖部分はSPPSによって導入するのが一般的であった。しかし、この方法では、SPPSの糖鎖アスパラギンのカップリング工程で貴重なN型糖鎖アスパラギンを過剰に用いるという欠点があった。この問題を解決するために、SPPSを用いずに糖ペプチドを得る新しい合成戦略を模索していた。2021年、野村・梶原グループは、二官能性チオ酸誘導体を用いたN型糖鎖アスパラギンの化学的挿入による新規合成戦略を報告した[29]。この合成戦略では、SPPSによるN型糖鎖の導入の代わりに、N型糖鎖アスパラギンチオ酸86をライゲーション部位としてその前後のペプチドを連結する。その結果、標的糖タンパク質全長の糖タンパク質は2回のカップリング反応だけで効率よく調製できた。第一段階のジアシルジスルフィドカップリング(DDC)では、N末端ペプチドチオアシド87を酸化的条件下でN型糖鎖アスパラギンチオアシド86とカップリングさせ、目的の糖ペプチド88をチオアシッドの形で得た(Fig.10)。反応は化学選択的かつエピメリゼーションが起こらないで進行し、また副生成物は生じなかった。第二段階として、カップリング生成物88を、ニトロピリジルスルフィド(Npys)で修飾したN末端Cysを介して、チオアシッドキャプチャーライゲーション(TCL)[30-31]によりC末端ペプチド89と連結した(図10)。このようなN型糖鎖挿入戦略に基づいて、野村・梶原グループはわずかな化学変換工程で全長糖タンパク質CCL-1 93とインターロイキン-3(IL-3)を効率よく合成した。この新規なチオ酸を介した戦略は、SPPSによる糖ペプチドの調製を必要としない糖タンパク質の収束的合成として有用であることが報告された。